薬剤師と希望
世の中には、考え方一つで様々な物の見え方がしてきますが、薬剤師などをしていると、その様な場面を顕著にみる事があります。
私がまだ、薬剤師として働いていた時の話しですが、とある夫婦が不妊治療のために病院と薬局に通っていました。
その夫婦は30代中盤位のとても良い感じの夫婦なのですが、子供が出来ない事を深く悩んでいる様で、薬局の薬剤師に色々と熱心に質問をしておりました。
その夫婦は、病院での検査の前になるべく早く結果が知りたいと、妊娠検査薬も購入していたのですが、ある時、奥さんが薬局へ飛び込んできたのです。
どうやら、妊娠検査薬で陽性が出たらしく、間違いがないかを聞きに来られたのです。
その検査薬は、99%の正確さをうたっていますので、まず間違いないとは思ったのですが、とりあえず、しっかり検査の結果が出るまでは、わからない事を伝えたところ、念の為と、また、妊娠検査薬を購入していきました。
その数日後、奥さんが浮かない顔で薬局を訪れ、生理が来てしまった事を伝えてきたのです。
あの後、念の為、妊娠検査薬を使用したのですが、やはり陽性だったそうで、ならば、何故生理が来たのかと、薬剤師に妊娠検査薬に対しての質問をしに来たのだそうです。
私は、すぐさま化学流産を疑いました。
化学流産とは一度着床したにも関わらず、受精卵などの影響で胎児が育つ事が出来ずに流産してしまうのですが、ほとんどの場合普通の生理と変わりないので、気付かずにいてしまう事が多いのです。
私は、妊娠検査薬で2回確かめた事を確認してから、化学流産の可能性がある事をつげ、どちらにせよ、病院で検査しなければはっきりとした事が分からない事を告げました。
そして数日後、ご夫婦2人でいらっしゃったのですが、やはり、思った通り、化学流産だったそうです。
私が、残念でしたねと言いかけたときに、奥さんが、「でも、良かったです」とおっしゃったのです。
私が、理解できない様な顔をしている事を察したのか、奥さんが、「一度でも妊娠していた事がわかったので希望がもてました」とのことでした。
その言葉は、私の薬剤師生活の中でも、鮮明に思い出されます。
ちなみに、そのご夫婦はその後、無事、妊娠、出産なされたのです。